SSD(高校3年生)個人レポートの完成と発表
- 2024.01.30
- 授業
いよいよ3年生最後のSSD講座となりました。
これまで自分のテーマについて調べ、先生や生徒同士で話し合い、修正を重ねてきた個人レポートも完成間近となりました。これまでの積み重ねから、レポートにはひとりひとりの成長が見られます。今日はコミュニケーションセンターで3~4人のグループに分かれてレポートの発表をし、最終的なブラッシュアップをしました。また後半は代表の生徒3名がクラス全体の前で発表をしました。
● 個人レポートのテーマ
生徒ひとりひとりが選んだテーマに沿ってリサーチした内容をグループメンバーと共有し、質疑応答をしてお互いの研究成果について話し合いました。生徒たちが選んだテーマを一部ご紹介します。
・すべての人が取り残されないまちにするには
・日本における異文化共生はどのように進められるべきか
・まちづくりにおける視覚的デザインの意義と可能性
・伝統文化の継承とまちづくり
・観光による地方創生の実現
・都市開発と放棄された空間の再活用:私有財産権とコミュニティの利益の調和
・政策としてのシビックプライドがもたらすまちづくりへの影響とは
~北欧諸国と日本を比較して
・イギリスのまちづくりから学ぶ日本のまちづくり
・日本における外国人技能実習生などの外国人住民にも暮らしやすいまちづくり
・中国政府による新型都市化政策と都市設計の関連性―上海市を例に
・デンマークの包括的アプローチから学ぶ住民と政府の在り方
・パブリックスペースの活用方法とマネジメント
・都市型農園が持続可能な社会の実現する可能性とこれを日本で実用化するにあたって起こりうる障害について
・BRT の先進都市クリチバ
・都市の進行に伴う将来の農業形態
次に、生徒3名の発表の内容を抜粋してご紹介します。
● 発表 「アイデンティティを活かしたまちづくり」
まちのアイデンティティとして、1)日本の伝統文化のひとつであるけん玉と2)ウィーンにおけるクラシック音楽に注目しました。
はじめに、けん玉を市技として制定している山形県長井市の地域活性化について紹介します。市技とは伝統文化の継承と発展のために地域文化の創造と振興を促すために制定されているもので、長井市はけん玉を世界に広めてまちおこしを成功させた都市として、2年連続で地域再生賞にノミネートされました。
けん玉を使ってまちを活性化させることに成功した理由として、市民がけん玉を自分たちのまちのアイデンティティとして誇りに思っていたこと、また過疎化やまちの衰退を懸念した行政が「長井けん玉のふるさとプロジェクト」を立ち上げ、そのプロジェクトの活動が認められたことなどが挙げられますが、老若男女誰でも楽しむことができ、適度な運動にもなるけん玉の魅力にも成功の理由があると考えます。
次に、クラシック音楽をアイデンティティとしてまちの活性化に成功しているウィーンのまちづくりにも注目しました。音楽の都としてのブランディングが観光客を引き寄せ、地域創生に繋がっているのではないかと考えます。
まちにとってのアイデンティティはそのまちに歴史的な深い関わりがあるものであり、現在愛されているものであっても衰退しているものであっても、それをうまく活用することによって多くのメリットがあると思います。衰退してきているものは伝統を守って継承できるという面もあります。それによってまちに活気があふれるので、アイデンティティを活かしたまちづくりは立派なひとつの形であると思いました。
● 発表 「都市型農園が持続可能な社会の実現する可能性とこれを日本で実用化するにあたって起こりうる障害について」
日本における新しい農業のあり方は、今後の持続可能な社会を形成していくにあたってさまざまな役割を実現することになるでしょう。この課題を解決する方法として都市型農園が挙げられます。
都市型農園のメリットとして、多様なまちのあり方に寄り添った形での農業を実現させるだけでなく、地産地消の促進、大量生産ができなくても鮮度が高いものをすぐに届けられること、まちの中に緑があることによってヒートアイランド現象の緩和など様々な効果も期待されています。また農園を地域住民の交流の場としても活用することができます。
日本ではまだまだ都市型農園の知名度が低く、その概念が一般的に普及していない原因として、法律によるその定義や目的が明確に定義されていないこと、色々な手続きが煩雑でNPOや市民、企業が農園を始めるためのハードルが高いことが考えられます。また固定資産税の支払いなど、資金が必要となるのでお金がないと始められないというハードルもあります。
都市型農園のさかんなドイツでは、連邦クラインガルデン法というものが制定されており、農園の定義がわかりやすく、理想的な活用方法が定められています。都市型農園にはいろいろなアドバンテージがあり、日本でも考えていかないといけない形だと思います。しかし実現化にはいろいろ問題があり、始める人が少ないということがあるので、まずは都市型農園に関する法制度を見直して、定義を作り、土地の提供者も利用者も安心して利用できるようにすることが大切だと考えました。
● 発表 「まちづくりにおける視覚的デザインの意義と可能性」
私は法隆寺の近くに住み、周囲は歴史的な街並みがあるところで暮らしていますが、ある時突然ピンク色の家が建ち、違和感を感じました。そこで視覚的なデザインを通して市民にとって豊かで素敵なまちはなんだろうということを考察しました。
まちづくりの中で視覚的なデザインをする意義として、ひとつはまちの画一化が挙げられます。その街特有の素材やその街の歴史に即したデザインの使用や、その時代の土木技術などによって、まちの魅力や個性をより引き出すことができると感じました。
もうひとつの意義は、現代の都市環境の設備をまちづくりにより活かすことができる点です。例えば、広島市環境局中工場はとてもきれいなガラス張りの建物で、イベントや結婚式の撮影会場としても使われるなど、ごみ処理場からは想像できない、市民にとっての豊かな建物となっています。都市環境の設備は見た目を少し変えることでまちとしての個性を出すことができると考えます。
最後に挙げられるのは、施設や空間を豊かにして快適な生活を実現することができる点です。例として、病院で取り入れられているホスピタルアートがあります。気持ちが沈みがちな患者さんが気持ちよく過ごせるようにしようという取り組みで、無機質になりがちな病院の空間に明るさをもたらしてくれる要素でもあります。病院だけではなく、老人ホームなどでも取り入れることによってよりよい空間作りができるのではないかと感じました。
次に、視覚的なデザインの中で色彩と建築デザインについて考えました。色彩については、派手なものではなくても、奈良では青垣のみどりを尊重し、奈良の風土に合わせた色彩景観、まちづくりが行われています。また、サンフランシスコのペインテッド・レイディズの街並みの事例では人々によって住宅の色が塗り替えられ、まちを元気づけるムーブメントが起きて、今のサンフランシスコの街並みができたといわれています。
また建築デザインによって存在感を高めたり、デザインを通して交通や施設などそのものに興味をもつことができます。例えばごみ処理場などの好まれづらい施設であっても、デザインによっては入りやすくなり、市民の憩いの場となりえます。
このように視覚という人間の大きな情報源を利用し、街をデザインしていくことによって、現代の環境をより豊かな場所へ導くことができます。都市デザインには無限の可能性が秘められていると考えます。
【発表を終えて】
発表では、ひとりひとりの生徒が持続可能で明るい未来を築いていくための提案や自分たちの思いを共有してくれました。発表の内容から、これまで自分のテーマについて一生懸命取り組んできたことが伝わってきました。また他の生徒の発表を聞くことによって、これまでになかった気付きや新たな発見もあったと思います。
SSD講座での学びは、持続可能で豊かな暮らしを実現するためのまちづくりにひとりひとりが参加していくための大切な学びの時間となりました。高校を卒業して、それぞれの進路先へ進む生徒たちですが、この講座で学び習得したことや培った経験をこれからに活かして、新たな環境においても大いに活躍してくれることを願っています!
● グループワークの報告
【リサーチブックの完成】
これまでグループでコンパクトシティのデザインをテーマに取り組んできたリサーチブックが完成しました。タイトルは「コンパクトシティと空間デザイン」です。生徒たちが取り組んだ研究の成果を1冊の冊子にまとめられたことで、生徒たちは大きな達成感を得ることができました。この経験を将来の学びにつなげていってほしいと思います。
【北欧フィールドワークに向けた準備】
海外フィールドワークグループの事前学習として、福祉社会デザイン学部の矢野拓洋先生をお迎えして、「デンマーク・スウェーデンのまちづくり」のセミナーを行いました。矢野先生の専門は建築ですが、先生はデンマークの社会や教育についても研究されており、先生のお話から、これから訪問する国のまちづくりや政策について理解や知識を深めることができました。3月下旬の北欧訪問が楽しみです。