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SSD(高校3年生)夏休みの課題図書 -プレゼンテーション

  • 2021.10.19
  • 授業

9月21日から4回の講座にわたり、予てより取り組んできた夏休みの課題図書をまとめる一環で、グループによる課題図書の内容共有のためのプレゼンテーションを実施しました。全12冊の各発表は、それぞれの持ち時間が質疑応答の時間を合わせて20分~25分、3回の講座に渡って行います。生徒たちは講座の時間外にも、グループで共有のウェブサイトを使い話し合い、作業を分担し、準備をしてきました。

 

【生徒たちのプレゼンテーションより】

●『人口減少×デザイン -地域と日本の大問題を、データとデザイン試行で考える』

日本や多くの地域でも直面する課題である人口減少。人口減少をだれもが無関係ではいられない重要かつ最大の問題と捉え、その本質をわかりやすくデータを元にカラフルな図などデザインの力で解き明かしています。明らかになった急激な人口減少、地域圏の減少が大きな問題とされる中、日本の2060年の人口一億人前後を維持することができると推計されている5つのアクション、7つのステップに基づくソーシャルデザインの考え方で人口減少の解決に挑むプロセスを、地域でできるアクションや事例を交えながら紹介、提案しています。

【質問など関心事項】

・ソーシャルデザインという発想:問題分析、今ある資源を活かしたプラン作り

・人口減少は、生みたい、育てたいという環境作りに専念して解決を目指す

・幸福を量る「指標づくり」が筆者の提言の中で出てくるが実際の計測の方法を具体的に知りたい

・女性の働きやすいコミュニティを作る仕組み作りが大きな鍵となる

・世界的には増加している人口、そこまで大きな問題と感じていなかったが、人口減少が地域の衰退の深刻な要因と知り、また表や図から人口がいかに減っているか喫緊の課題であるという現状を知った

 

●『モビリティ進化論』

現在の自動車業界は100年に1度の大変革期である。変化の4つの特徴として「つくり方」「パワートレーン」「人・社会とのインターフェース」「使い方」を挙げています。特に自動運転化やコネクテッド化、シェア化では大きなビジネス化につながる自動運転と次世代モビリティサービスについての普及に向けたシナリオを都市、産業、社会、ユーザーの4つの視点からアプローチし、既存事業へのインパクトが述べられています。都市内交通・都市間交通の人口規模との最適な交通モード、日本に有効となるモビリティサービスの検証を行っています。大気汚染の軽減、CO2排出量の削減、財政負担の軽減等の社会的課題に対しても間接的な効果を期待。

【質問など関心事項】

・シェアするよりマイカー文化が根強くある日本では、公共交通のある都市部であっても車を手放すことは難しいのでは

・一般のドライバーが自家用車を使って人を運ぶライドシェアが広まるための法律の規制緩和が必要

・モビリティサービスの普及とともに、マイカーでは逆に不便となるような社会の仕組みつくりも必要

・モビリティの進化は直近の社会課題解決のために必須だとは捉えにくかったが、環境問題を始めとした身近な問題の解決のための大きな可能性があるという新しい視点、気付きがあった

・日本独自の進化、解決策が求められていると感じる

 

●『モビリティをマネジメントする』

街の賑わいが自動車の普及により人々が郊外へと移ることで失われている。公共交通の利用者も減り、バスの廃線など、それを必要としている人の生活の維持と、また環境への負荷を小さくしようとするコンパクトシティの形成はより困難に。その問題を解決へ導くモビリティマネジメントとは、人と人とのコミュニケーションを重視し、交通の状況を都市や街がその場所を利用する人に使いやすく、改善していく取り組み。MM(モビリティマネジメント)の成功例として「歩くまち・京都」、「帯広市の十勝オンデマンドバス」「江ノ島電鉄の混雑対策」を紹介。熱意と公衆とのコミュニケーションを重視したことが成功の鍵でした。

【質問など関心事項】

・歩くまち京都とシビックプライドはどのように結びつくか

・十勝バスのワンショットTFPとはどのように人々の気持ちを動かす仕掛けがあるのか

・公衆とのコミュニケーションの一番の方法はアンケートが中心になっている

・人々の生活圏や行動範囲や移動をコントロールするのもまた仕組みを作る人たち

 

●『フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか』

人口減少、高齢化、地域産業の衰退、自家用車の普及によるモータリゼーションの進展は、中心市街地の衰退の要因となっています。ところが同じ課題を抱えるフランスでは、自家用車の利用に縛られない歩く市街地と郊外型ショッピング施設との共存でQOL(生活の質)の向上を実現。中心街は、車を気にせずショッピングやお茶を楽しむ歩行者専用の空間、そしてLRTの整備など公共交通整備を中心としたまちづくりが市民の心地よさにつながっています。こうした交通政策、商業政策、コンパクトシティ政策、そして徹底した情報開示と市民との対話を重視した政治、「どのようにすればできるか」を考え実行するフランスの豊かなQTLの実現のための取り組みから学びます。

【質問など関心事項】

・できない理由を挙げるのではなく、どのようにしたらできるのかを考え、実行することが大事

・生活の豊かさは誰かが作ってくれるものではなく、自分たちでつくるもの

・地方自治では今ある資源や特徴を見直し、独自の政策が必要

・京都などで自家用車の利用を制限する取り組みが行われているが、生活を不便にしているのでは意味がない

 

●『スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアのちいさな町』

大型ショッピングモール、チェーン店や画一的な住宅街などによる均質化、没場所性から閉塞感を感じさせる日本のまちづくりに対して、人も文化も置き去りにしない目に見えないものの価値を大切に活かすイタリアのスローシティの各地での取り組みを紹介。著者が考えるスローシティとは、人間という生き物を置き去りにしない、人と人との交流の場を大切にする個性豊かな町。食と美意識への関心が高いイタリアの気質からも、それぞれが受け継いできたものを大切にするまちづくりは、結果的に人にも環境にも配慮した取り組みでもあり、それぞれのまちのシビックプライドの形成にも繋がっています。

【質問など関心事項】   

・スローシティとコンパクトシティ、またファーストシティの定義の違いや取り組みの違いをもっと知りたい

・イタリアの町がスローシティ化を目指した理由、きっかけは何か

大都市への人口流出か

・まちづくりは住民で組織された自治体が主体となり、法令や条例も自治体ごとに独自のもの

・イタリアの食と住居に対するこだわり、質を重要視している。食はファストフードに対してスローフード

 

●『ポートランド -世界で一番住みたい街をつくる』

ポートランドは10年間にもわたり、全米で一番住みたい街として選ばれているアメリカ西海岸のオレゴン州にある都市。住みたい街として選ばれる理由や40年かけて作られてきたコンパクトシティの歴史的背景、行政の仕組みや様々な取り組みをわかりやすく解説しています。自然を愛しライフスタイルを重視する住民の姿勢が、結果的に街の賑わいと環境への配慮を兼ね備えた優しいサステイナブルな生活をになっています。ポートランドのライフスタイルとは、物よりも体験、エンタメよりも教育、地元愛から地産地消にこだわるといったことに価値を見出す生き方。市民が車とは別の手段で移動がしたいという需要から公共交通機関やサイクリングロードが発達、また市民の投票により設立されたPDCの存在で、さらに市民が過ごしやすい環境が整備されるといった、市民が自らの意思で直接まちづくりに積極的に参加し、より良い街をつくっていこうとしている事が街の質の向上へとつながっています。

【質問など関心事項】

・市民の声を市政に反映させる具体的な方法とは

・街の発足のきっかけを作ったのは意識の高い人たちか、行政か、生き方とまちづくりはどのように結びついたのか

・そもそも地元の人たちのポートランド愛が生まれるきっかけは何か

・都市境界線は自然を守るためか、都市設備の費用を節約するためのゾーニングか

・ライフスタイルを重視するポートランド市民、日本でそうなるために必要なものは何か

・ポートランドを知る前の想像を遙かに超える魅力的な街、一度訪れてみたい

 

●『神山進化論 人口減少を可能性に変えるまちづくり』

神山町は徳島県中部に位置する過疎地で、全国で20番目に「消滅可能性が極めて高い」と告げられました。ところが、ある若者のどうせ住むなら自分たちが楽しいことをやろうと取り組んできたことの積み重ねからITのまちとしてビジネスや芸術に取り組む若者が集まるように。まちが再生するまでの住民の取り組みを紹介、たくさんのヒントから地方創生戦略を解説しています。「何もない」と諦めず、「何もない」からこそ何にも囚われず、「やったらええんちゃう!」の精神で、できない理由よりもできる方法を見つけるポジティブな支援、仕組み作りを紹介しています。

【質問など関心事項】

・シリコンバレーにちなんで活動をサポートするグリーンバレーを設立、同じ何もないところからITで再生するといった共通点は目の付け所が良い、またユーモアを感じる

・何もない、少ない住民といった状況を新しいことをしやすい環境が整っていると捉える

・同じことを京田辺の規模でできるか

・住民が増え、ますます協働の意識が高まる神山町は、今後の進化も楽しみ

・魅力的なまちは海外の事例が多い中、日本の過疎地域での取り組みとその成果に期待がもてる

 

●『イギリスとアメリカの公共空間マネジメント』

公共マネジメントとは、公園や高架下などの公共スペースを行政や民間がより良い空間とすることです。

都市環境の向上のために、イギリス、アメリカの官民連携による公共空間マネジメントの政策や実践例について解説。様々な取り組みは、住民を中心とした非営利組織が関わることで、公共サービスのもとでは公園などへの予算削減で人々の関心も薄れ荒廃しつつあった公共空間を蘇らせ、利用者の増加は人々の生活の質の向上、シビックプライドの向上を実現させています。

【質問など関心事項】

・今までの公園の発想とは違う新しい公共空間、まちの雰囲気をガラッと変え人々が集う空間へと変わる効果の大きさを感じる

・公共空間の荒廃はまちの治安を悪化させる原因

・公共空間によりまちがどのように変わるのかより具体的に多くの例を知りたい

・公共空間をどう使うか、手っ取り早くビジネスビルを建てるのではなく、住民、民間の様々な団体を巻き込み可能性を探ることの必要性がわかった

・公共空間はまちの活性化にとって大きな可能性を秘めているので、空き地をもっと有効的に整備すべき

・官民連携が公共空間マネジメントには不可欠、そしてまちづくりの計画にも同じことが言える・

 

●『シビックプライド~都市のコミュニケーションをデザインする~』

シビックプライドとは、市民が都市に対して持つ自負と愛着。「ケーススタディ」「論考」「提案」の3つの章を通して、10の事例からシビックプライドを醸成する都市コミュニケーションについて考えています。ヨーロッパで1990年代に本格化した地方分権化と都市間競争、都市の魅力や個性をアピールし、そのプロセスでは市民の関心をかきたてるような「コミュニケーション」に力が注がれました。ケーススタディで紹介される事例は、アムステルダム、ハンブルクの取り組み等、共通点は市民を巻き込む都市づくり、市民自身がまちの魅力であり、まちをより良い場所にしていく力と責任の自覚を啓発している点。シビックプライドを多方面から捉え、その育て方(よい循環)について先行事例より解説することで、シビックプライドを育てる重要性を伝えています。

【質問など関心事項】

・ライフスタイルがパブリックライフとはどういうことか

・アムステルダムのどのように世界的な地位を回復していったのかそのプロセスに興味が沸いた

・日本では、自分たちがまちづくりの一員だという自覚はあまりなく、行政がやってくれるものという感覚

素早い高度成長の過程で、行政にとっても市民を巻き込み時間をかけることは不都合であったのか

・シビックプライドは、あくまでも自分たちがまちづくりに関わっているということが前提で生まれるもの

・シビックプライドを育てるための6つの要素、京田辺で必要なのは何か

 

●『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』

コンパクトシティとは、郊外に移住地域が広がるのを抑え、できるだけ生活圏を小さくした街。

ドイツの街はコンパクトで活気がある一方で、日本のコンパクトシティはなぜ成功しないか、同じ規模の両都市(フライブルク・青森)の取り組みと現状で比較検証。日本での古くからの人々の土地や家屋の所有へのこだわりが様々な面での整備の大きな壁になっていることがわかりました。ドイツの経済対策では、キロワットアワー・イズ・マネー(エネルギー部門)、キロメートル・イズ・マネー(交通部門)で地域内の省エネ対策、移動の利便性の確保で地域経済の活性化が可能になっていることを紹介。また共通の課題である人口減少・超高齢社会では自家用車主体の交通は立ち行かなくなります。そこで大胆な車の抑制、住宅地の高密度化、商業施設の集約、公共交通の財源確保など、移動距離の短いまちづくりによって交通を便利にし、経済を活性化するドイツのしくみをわかりやすく解説しています。

【質問など関心事項】

・土地神話や不動産神話といった日本の人々の価値観を変えるには、所有することによるメリットを感じない政策が必要

・コンパクトシティを作るには、ショートウェイシティを実現させることが必須

・住民の話し合いや理解を得た上で、自家用車中心のライフスタイルを変える、誰にも優しい大胆な交通の整備が今後必要

 

●『未来都市構想 ~スマート&スリム』

よりよい未来都市を実現させるためには環境品質の向上と環境負荷の削減の両方が必要です。しかし双方とも実現させるのはとても困難です。そこでまずは価値観の転換を、すなわちパラダイムシフトをして視野を広げることが重要です。モデル都市を作り、スマート化、スリム化に取り組む事がよりよい未来都市の実現につながります。ここでのスマート化とは、情報システムや各種装置に高度な情報処理能力あるいは管理・制御能力を持たせること、スリム化とは、環境負荷の少ないライフスタイルの実現のための価値観の転換のことです。未来都市実現に向けた日本政府の取り組みは、大幅なCO2削減に取り組む13の環境モデル都市、スマートグリッドの導入、スマートコミュニティの試みといった、IT技術による環境負荷の低い効率的なまちづくりへの取り組み、そして環境とさらに高齢化の課題に取り組む、環境/社会/経済を重視したトリプルボトムラインを設けている11の環境未来都市で試みが行われています。この中から成功事例を全国に未来都市として普及させる計画です。

【質問など関心事項】

・環境モデル都市や環境未来都市の選定はどのように行うのか

またどの程度税金が使われるのか

・脱物質住宅というイメージが難しい

・環境のためということではなく、あくまで人々の生活の品質の向上といった他の要素への影響に目を向けることも大事とわかった

・技術の革新により、品質の良さが環境の負荷と比例するわけではない

・未来の都市つくりにおいて、価値観の転換は日本をはじめ、発展途上国でもより求められていること

 

●『デンマークのスマートシティ:データを活用した人間中心の都市づくり』

デンマークにおける現在のスマートシティ社会が出来るまでの生い立ちに加え、それらを成し遂げるためにデータを活用した事例を紹介しています。デンマークのスマートシティの特徴として、「全体最適型:幅広い包括的なアプローチ」「人間中心:市民が中心」「包括的:幅広い参画者の採用」「トリプルヘリックス:デンマーク型産官学連携システム」があり、一般的なスマートシティ、日本での取り組みとの比較対比でわかりやすく解説しています。また日本が学べることとして、北欧民主主義に沿った社会システムの構築を紹介。トリプルヘリプスといったあくまで民間組織が展開するプラットフォームを尊重するシステム、オープンデータといわれる膨大な情報や知識を政府が管理し開示、人間中心の暮らしを最優先しながら先端技術を積極的に取り組んでいます。

【質問など関心事項】

・デンマークを中心とする北欧型の取り組みが日本でも多く参考にされていると思うが、具体的にどのような取り組みが日本でされているか興味をもった

・デンマークの医療データなども効率化で政府が管理する仕組みは、プライバシーの観点から日本では導入が難しいのでは

・デンマークでは市民webポータルサイトなどが一般的に活用され「できない」ではなく「学ぼう」とい仕組みのサポートが手厚い

・デジタル化はスマートシティ、そしてサステイナブルな生活への移行には欠かせない改革

 

【プレゼンテーションを終えて】

12冊の課題図書について、全員の発表とディスカッションを交えた質疑応答が終わり、生徒たちはそれぞれ以下の点についてワークシートにまとめました。

  • 発表を聞いてわかったこと、疑問に思ったこと
  • この本から学んだことで、政策として生かせることがあるか。あるとすればどのような点か。
  • 京田辺市の自分の企画との関連性や、企画に活かせる内容はあるか。
  • ディスカッショントピックより1つ取り上げてその内容について自分の意見

生徒たちは、大きな政策の実施や費用の面において、政府や自治体が動かなくてはどうしようもないと感じていたことが、自分たちの行動や提案、そしてやってみることから変化を起こすという前向きな気持ちになっている様子をうかがうことができました。若者らしく、SNS等を活用してトレンド化を起爆剤にしたいといった意見もありました。これからの京田辺市への政策提言にも積極的に課題図書から学んだことを活用して行く予定です。


【並行して取り組んでいる課題】

・京田辺市への提案の修正と補強

・リサーチブック改訂版の編集・修正