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SSS(高校1年生)まちづくりの先行事例 -岡山市、富山市

  • 2022.11.19
  • 授業

前回の講座では、京田辺市のまちづくりについて、「これまでの編成」「武田先生の講座の振り返り」「今と昔の京田辺市の変化を住民の目を通して」「同志社と京田辺市のこれまでの関係」そして「京田辺市の都市計画マスタープラン」と学びを深めてきました。今日は、「都市計画マスタープラン」について続きを吉田教諭より、そしてまちづくりの先行事例の紹介として以前のワークシートにある「岡山市」を坂下教諭より、「富山市」を帖佐教諭と北川教諭より、それぞれ街を訪問し現地の印象や担当者の方に伺ったお話を報告します。

 

●都市計画マスタープランに私たちはどう関わることができるのか

以前に学んだ徳島県神山町のまちづくりにおいては、繋がる公社があるということが特徴的でした。先日のディスカッションでも官民が繋がることが、よいまちづくりにつながっているという話がありました。京田辺市では、京田辺市の都市計画マスタープランをホームページで随時公示し、それに対するパブリックコメントを一般募集しています。寄せられたパブリックコメントの全てと行政の回答は公表されています。


パブリックコメントの一例

募集期間:令和3年11月15日(月)から令和3年12月15日(水)まで

(ご意見の概要1)「歩いて暮らせる快適な街作り」の項目に、「主要幹線と生活道路の分離による住民の安全 確保」を加えるべきだ。道路整備の……

(ご意見に対する考え方)ご指摘のとおり、山手幹線の混雑度が増してきていることから、本市では、本計画 P75「(1)幹線道路の整備」●主要幹線道路に記載のとおり、山手幹線(北部地域)の交通対 策の検討を行い、山手幹線の抜本的な混雑解消に向けた取組みを進めることとしています……

(ご意見の概要3)三山木駅を単独で拠点とするには時期尚早ではないか。理由として、中部と比較して食事ができる店舗が限られていることや、市役所・図書館の分所機能がない(一部あるが)ことが挙げられる。三山木駅を……

(ご意見に対する考え方)本市が目指す京田辺市型集約都市構造では、本市を北部、 中部、南部の3つの地域に分け、それぞれの地域の拠点駅周辺に都市機能の集積を図り、効率的でコンパクトなまちづくりを進めることとしています。 ご意見にもあるとおり、……

京田辺市ホームページ/パブリックコメントの実施状況より

https://www.city.kyotanabe.lg.jp/0000008531.html


他にも、大型商業施設新設における交通渋滞の懸念、アルプラザ京田辺店の拡大を要求、ヤマダ電機を作って欲しい、近鉄とJRの京田辺駅を直結して欲しい、などの意見も寄せられています。紹介は一部ですが、自分が住んでいるまちで、市に要求もできる、このような形でまちづくりに関わることができる、ということを念頭に置き今後の話も聞いてください。

 

●岡山市の事例

人口約72万人都市。これは大阪市270万人、枚方市40万人、奈良市36万人、京田辺市7万人、と比べてわかるように岡山市は比較的大きな都市です。県立図書館の来館者、貸出冊数、新刊購入は日本一です。ただし、人口減少にともなう中心市街地の空洞化、車中心のまちでは人の行き交いが減りまちの回遊性が失われつつある状況が課題となっています。

【愉しみつくる岡山の暮らし方】

これからのまちづくりは、様々な住民にとって安全安心で快適なまちづくりとしました。


岡山市のまちづくり事業を行う上での2つの目的

「車中心」から「人優先」の安全で快適な「歩いて楽しい」道路空間の創出

幅広い年代、多種多様な方が魅力と感じる空間の創出


【取り組んだ事業】

県庁通り:車線を減らし歩道を広く、また道を少し曲げて木を植えベンチを設置

⇒こういった計画を進めるのに社会実験的に試行錯誤しながら、最初は批判的だった地への理解を深めるために5年かけました。

下石井公園:マンションなどビルの谷間にあって閑散としていた公園を芝生の憩いの場へ

⇒48日間の社会実験として人工芝を敷いてみると、あっという間に人が多く集まるようになり、現在は本格的な芝生化に向けて設計や工事が始まっています。

 

行政と市民が対話を重ね、行政が取り組みについて理解を求めるときは、データよりわかりやすいイメージを伝えポジティブな変化を説明したそうです。そして社会実験やイベントを通して、実際にやってみて、うまくいかなかったこと、いったことを実証し、検証し、理解を得ながら進めていくという方法をとっています。

●富山市の事例

人口41万人都市。近隣には、金沢や新潟といった観光都市があり、北陸ではどちらかというと印象が薄いかもしれません。ところが、海の幸に恵まれた富山湾から登山家を魅了する3,000メートル級の山々までが織りなす自然の姿は世界第一級の景観を誇ります。北陸新幹線の延伸も完成すればさらに違い場所にもなります。帖佐教諭の訪問時は、あいにくの通行止めで、東京経由の新幹線で5時間かけて向かうしかなかったそうです。また従来富山市は全国的に「くすりのまち」としても有名です。北川教諭からも、かつてご実家に薬を背負って常備薬を売りに来た富山の薬売りのお話を伺いました。その独自の商売スタイルもあり、全国を巡ったことから、上杉謙信のスパイではという説も残っているそうです。富山のイメージが膨らんできましたが、まちづくりはどのように進められてきたのでしょう。

【コンパクトなまちづくり】

富山でも、やはり人口減少、超高齢化社会を見据え、その課題に向き合っています。そこで、過度に車に依存した社会の見直しとして歩いて暮らせるまちの実現を目指しました。2006年にはヨーロッパなどで見られる本格的なLRT(次世代型路面電車システム)を日本で初めて導入し、バリアフリーや騒音や振動面でも改良された「富山ライトレール」を開業、翌年には中心地に全天候型の多目的広場「グランドプラザ」の開業、2009年には市街地を循環する先進的現代的デザインの「セントラム」が運航を開始し市民に親しまれています。


富山市の公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりの3本柱

公共交通の活性化

公共交通沿線地区への居住促進

中心市街地の活性化


【富山市民の誇り】

2009年からは国内外に戦略的に情報を発信するシティプロモーションを展開し、富山市の認知度と都市イメージの向上を図っています。地域に秘められたポテンシャルを引き出すには「シビックプライド」の向上が後押しになると考えたからです。合言葉は「AMAZING TOYAMA」です。例えば、アメイジングトヤマ写真部、アメイジングポスター、フォトフェスティバルでは、市民が写真を通して富山の魅力を発信、アメイジングトークでの若者によるディベート、富山や富山を拠点に活動する人の紹介など、市民をボランティアとして巻き込み活動を広げています。

【リーダーシップ】

こういった取り組みで富山市のまちづくりは多数の受賞歴があります。人口を増やすという目標は持たず、コンパクトなまちで人口減少や高齢化に備える、しかも住民が誇りを持つ快適なまちづくりを推進しました。こういった活動を精力的に牽引した森前富山市長の存在も大きかったといえます。現在市民に嫌がられることであっても、将来市民のために「今」やらなければならないという熱意を持ち、まちの郊外への拡散を止め、公共交通をブラッシュアップして車中心の暮らしをシフトさせる政策を実行しました。街を花で飾ったり、花束を買い電車に乗ると無料といったしゃれた取り組みもあります。前市長もこういったまちをよくするための工夫や取り組みを市民と一緒に楽しんでしているという印象です。