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SSS(高校1年生)大阪公立大学 武田重昭先生講演 『持続可能なまちをつくるために』

  • 2022.06.11
  • 講演会

今日は大阪府立大学の武田重昭先生を実際にお招きし貴重なお話を伺う機会を持ちました。武田先生は緑地計画学(Landscape Architecture)を専門に研究され、多くのまちづくりの実例を通してシビックプライドの構築についても大変詳しく書籍や多くの講演等でも発信を続けておられています。今日のために、事前の生徒たちの質問に目を通していただき、できるだけそれに答えようと講演をご準備くださいました。

 

司会進行はWWL委員の生徒たちが担当しました。またWWL(World Wide Learning)コンソーシアム構築支援事業の拠点校として、本日の講座に連携校である聖母女学院高校の24名の生徒さんをお招きし、学びを共有することができました。

 

●武田重昭先生の講演より

【問い①:理想のまちってどんなまちですか?】

その街を考えるにあたってその街が魅力的なまちか、ということは一番大切なポイントだと思います。魅力的なまちの風景はどのようにできているでしょうか。どんなに都市化が進んでも、自然とともに生きているという実感、その自然的要素に、ベンチや歩道、照明等の人工的な要素が合わさることで空間の魅力が生まれています。でも大切なのは、空間だけではなく、そこでくつろいだり楽しんだりする人々の生活が風景として見えて初めて総合的に魅力的だと感じられるのです。そして人々がそこにいない時でも、こういったコミュニティの存在や安心感、賑わいが周りに及ぼす地域経済への波及など、よい効果が広がっていきます。



存在効果(そこにその空間があるだけで発揮される空間の魅力)

利用効果(人々が利用することで生まれる生活の魅力)

媒体効果(空間を利用することで周辺にもどんどん波及していく)



【問い②:パブリックライフで私たちの暮らしは豊かになりますか?】

公共空間を利用することをパブリックライフと言います。日本には昔からもともと四季折々の屋内外でのパブリックライフが存在しています。さらに海外に行くと、映画の一場面のような素敵なパブリックライフを過ごす人たちをよく見かけます。実はパブリックライフは1人でも、明日からでも、変えることができます。パブリックライフが地域を変えた実例として、徳島県の神山町を紹介します。人口減少が進んでいた集落が、その美しく豊かな自然環境を改めて見直し、Wi-Fi環境を整えることで、その環境の中パソコンを使って仕事をするという生活スタイルを発信し、若者が集まり移住してくるようになったのです。



パブリックライフとは、

公共空間で他者と直接的・間接的に関わりを持ちながら過ごす社会的な生活のこと。

誰もが気軽に他者とふれあい、刺激を受け、都市のムードを共感するといった経験は、都市の持つ本質的な魅力そのものである。



⇒パブリックライフを育むのはひと。パブリックライフを盛り上げるには人が大切です。

 

海外で、公園を利用した芸術やスポーツイベントをよく見かけます。これらは習慣として頻繁に日常的に行われています。日本ではこういったイベントは年一回の大規模イベントであることが多く、「賑わい」を重視し過ぎているのが今の日本でもあります。今日より明日が少しよくなるといったような、賑わい至上主義を超えたまちの持続性を高めることが大切です。



10,000人の1回より

大規模行事としてのイベント

100人の100回を

日常的な出来事としてのイベント



賑わいを作るのは簡単、1人であっても豊かに上質な時間を過ごす空間を作ることの方が難しいと思いませんか。集団の喚起ではなく、そこにいるそれぞれが豊かな時間を過ごしつつ、他者を思いやるような関係性が生まれる空間が魅力的だと考えます。

ソーシャルディスタンスで、距離をとりながらもそれぞれの人が思い思いに楽しむといったことでは、コロナ禍で得たパブリックライフの芽生えでもあったのではと思います。



協働VS共同

CollaborationからCommonへ

チームで力を合わせ1つの目標に向かうよりも、それぞれの人が思い思いに行動しながらも他者に対する連帯感や一体感があり一緒にいる価値を生む時代が来ている



⇒「離散的空間」

自立した人間であるとともに、連帯する人間でもあるような集合としての共同体(原 広司)

つまり、身体的な関わりを持たなくても、同じ時間と空間を共有することによって、他者と連帯するという、新しいパブリックライフの魅力が生まれています。

 

【問い③:なぜシビックプライドが必要なんですか?】

シビックプライドを考えるとき、「なぜ市民がまちづくりに関わることが必要なのか」が答えになると思います。日本の現状として、人口の推移は減少の一途をたどっています。それは、皆さんの活躍する時代は税収が減り、新しい建物は作れない、既存の建物の管理も難しいということを意味します。そこで行政は、市民に「ラストワンマイル」の施策として、最も現場に近いところで市民に協力を得てきめの細かいサービスを実行し、自分たちで課題を解決してもらおうとしています。

国民・住民にも地域への貢献を求める社会になることで、与えられることへの幸福感から自己実現で誰かに何かを与えることで幸福感を得る時代へと変わりつつあります。



シビックプライドとは、

市民が都市に対して持つ誇りや愛着のこと。

日本で言う郷土愛とはニュアンスが異なり、自分はこの都市を構成する一員であり、都市をより良い場所にするために関わっているという意識を伴う。

つまり、ある種の当事者意識に基づく自負心といえる。



まちをつくるのは自分たち!

・大阪城を造ったのは市民(全額市民の寄付で再建されている)

・市民吹田サッカースタジアムは市民や企業の寄付で建てられた

・熊本城の復興への市民をはじめとした個人からの多くの寄付

 

都市を共感するアクティビティー、理解する情報のデザイン、アイデンティティを感じるシンボル、体験する空間のデザインを個別ではなく関連付け、1つのメッセージとして結びつける必要性から、コミュニケーションポイント(都市と人とのコミュニケーションをデザインする都市情報センター)はヨーロッパのまちではどこにでもある組織です。



シビックプライドを育てるキャンペーン

    1. 1.you are your city (バーギンガム)

2.I LOVE NY(ニューヨーク)

3.BARCELONA BATEGA!(バルセロナ)

4.I amsterdam(アムステルダム)

特に、I amsterdam は、私自身が都市なんだという意識からより強い関わりを感じる



⇒本当のシビックプライドが必要な理由として思うことは、幸福な暮らしをするために、まちをつくるのは自分なんだという気概、そしてまちをつくる一員なんだと思えるかどうかです。

 

問い④:多様な価値観をどうやってまちに活かすことができますか?

いろいろな人がいて、そのたくさんの個性を1つのまちに反映させていくことは可能でしょうか。例えば、「みんなの公園」を例に見てみると、「~禁止」「~はしないで」と注意書きをよく見かけませんか。実はみんなのものだからと規制するのではなく、使うわたし達の立場に立った公園の運営をすることで「私たちの公園」になります。

 

ブラジリアの例:1人の都市計画課と1人の建築家が自分たちの理想によってつくったまち

→専門家による機能的なまちのはずが、住民にとって住み良い心地良いものではなかった。



計画家は「可能性を持った環境を提供することしかできない」

ハーバート・J・ガンス

村は住む人のほんの僅かな気持ちから、美しくもまづくもあるものだ

柳田国男(『美しき村』より)

ある一つの景観はそれを見る人の教養と文化と職業を通じはじめて意義を持ち得るに過ぎない

サン・テグジュベリ(『人間の土地』より)



⇒It’s our space!これからのまちづくりは誰かにつくってもらうのではなく、自分たちがつくる。まちをつくるプロは可能性を持った空間は提供できるが、実際に価値が生まれるかどうかはそこを使う人達にゆだねられています。

 

【問い⑤:いま、私たちにできることは何ですか?】

高校生だってまちをつくる一員です。誰かに与えてもらう、してもらうということだけではなく、自分たちの生活の中でできることがあるのではないかと考えてもらったことが嬉しいです。

 

屋外での映画祭を紹介しましたが、映画を楽しんでいる人たちも多くいる一方で、その人たちが楽しそうにしているのを見て楽しんでいる人たち、つまり映画の主催側、市民ボランティアの人たちがいます。こういう人たちをイギリスでは、Parkforceと呼ばれ、その活動を広げています。それでは、こういう活動には強いリーダーシップがいるかといえば、そうではありません。いろいろなジャンルのいろいろな緩い団体が沢山どんどんつながりあって行くことの方が実は強く良い行動となっています。



リーダーシップ より

先頭に立ってチームを引っ張る

フォロワーシップ を

チーム全体のパフォーマンスを向上する



みなさんもこういう1つの役割を担うことが十分にできます!

 

このまちで生きる自分が好きだ!と思ってもらえたらと思います。そのためにも、自分を知り、好きな自分や嫌いな自分、いろいろな自分を好きになることもとても大切なことです。

そういう考え方で都市とも付き合うと、もっとまちが好きになると思います。そして、将来の子供たちが、こんなところに住みたい、そう感じられるようなまち、社会になるためには自分はどうすればよいか、考えて行動してもらえたら嬉しいです。



まちの魅力となり持続可能なまちをつくるのはあなたです!



●講演を聴き終えて

武田先生は、とてもわかりやすく丁寧に生徒たちの1つ1つの質問に対して、実例や写真、研究や書物の紹介を通して、先生の研究に基づく考え方を説明し答えてくださいました。最後に、「正解のあることを学ぶことも大切、でも実は正解がないことの方がむしろ大事なことが多く、大学ではそういう学びが待っています。」とおっしゃっていました。現状やコロナ禍での不安な経験から気持ちが沈むことも多い中、この経験が私たちの豊かな生活のための大事な気付きとなり、皆で再考し実践していくきっかけでもあると教えていただけたことは希望となり、自分たちが関わっていくという当事者意識を再認することとなりました。